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Jan Svankmajer "Alice's Adventures in Wonderland" |
「オブジェに宿るもの」というテーマでセレクトされた映画を観ています。
毎回ちょっと変わった興味深い映画ばかりで、40席のプライベートシネマでもあり集中して見ることができます。
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HERMESパンフレットより |
一作目は、ヤン シュバンクマイエルの「Alice」です。
ルイス キャロルの不思議の国のアリスが原作ですが、見事にヤンのシュールな世界で、鼻のないウサギの剥製や目玉、バターが塗られた時計...。
夢に出てきそうで怖いくらいですが、子供の世界を思い出しました。
子供の時は現実と幻想は混じり合い、想像力による恐怖や目には見えない世界はいつも隣にあり、今思うとなかなか大変な世界でした。
『そんなものはない!』と言い切ってしまえる大人は安心な世界に住んでいますが、本当はどうなんだろう...。
私の中には幼心も残っているので、シュールな世界も案外現実に思えることもあります。
ヤンもそうなのだと思います。
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HERMESパンフレットより | |
次は、ジュゼッペ トルナトーレの「The Best Offer 鑑定士と顔のない依頼人」
最初から完全に世界に引き込まれて、息を詰めて見ていました。
謎があちこちに散りばめられ、最後にその糸が一つに合わされてゆくのは圧巻です。
沢木耕太郎氏が2度目に見ると作品の印象が変わると書いておられましたが、是非もう一回観たい映画です。
今は謎は謎のままコロコロと頭の中を漂わせています。
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HERMESパンフレットより | | |
そして、エルマンノ オルミの「Cento Chiodi ポー川のひかり」
原題は100本の釘という意味です。
大学の図書館の床や机に、100冊の貴重な宗教書が釘で打ち付けられている場面から始まります。
キリストを磔刑した釘と寸分違わない鉄のプリミティブな釘です。
主人公は、神は偉大な宗教書の中ではなく、人や自然との交流の中にあると悟ってゆきます。
本を磔刑にした罪で、自宅軟禁というそこから動けぬ磔刑とも言える裁きを受けますが、川沿いを歩く主人公は笑っていたと見かけた子供が話します。
そして帰りを待ちわびる村人たちの前には姿を現さずに、消えてしまいます。
冒頭インド系の女性の、宗教の中での重要な女性の役割についての話があり、
それはパン屋の村娘につながり、ラストに娘が流す涙はピエタのマリアを思い起こさせます。
心を通わせる村人の中の一人(おそらく知的障害が少しある、絵を描くのが好きな男性)が、『川はとても遠くまでゆける。』と言っていたことを私は考え続けています。
主人公の魂は真理に触れ、ポー川のように自由になったのだと。
真理と自然は同義語で強く美しいものだから。